これからの自治体経営に求められるもの②

公共不動産における「空間」と「制度」と「組織」の大変革

自治体にとっては、とても頭が痛い公共不動産の更新問題。(前回の記事を参照「自治体を悩ます公共不動産の課題について」)総務省では、自治体の起債(借金)のメニューに初めてともいえる除却債という「建物を取り壊すための借金」のメニューが加えられました。使わなくなった、役割を終えた社会資本(モノ)の除却です。

もう一つ視点は、「活用できる資産」にも着目し、民間と一緒に使える資産や、「稼ぐ機能」に着目した資産の再投資についても政策的にバックアップする動きがあります。

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戦後作られたストックが、大量に更新時期を迎える中、自治体でも、保有する公共不動産を地域で新たな視点を入れた活用をする動きが広がってきています。今まで行政が苦手としてきていた「稼ぐ」という視点も重要になってきています。

公共R不動産という建築家馬場正尊さんの本に、日本の公共空間においては、3つの大変革が起こってきていると書かれています。その3つとは、「空間」「制度」「組織」

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「空間」は、新たな視点で空間を作り直す、組み合わせを変えて、使う、「稼ぐ」機能も公共に組み合わせたり、シンプルに言えば、言ってみたいという公共空間を増やせる可能性をいかに伸ばせるか?といっても過言ではありません。

「制度」は規制緩和、社会実験で住民のニーズに合わせて新しい使い方を実験する、運営組織も民間や住民組織が行うというもの。

そして、組織は、使う側の視点で、柔軟な対応や、契約の仕方など公共空間のハードルとなっている行政の縦割りの管理状況など、このあたり複雑なところが多いですが、ここが変革していくと、もっと公共空間の使い方は、面白く使えるようになってきます。(なかなかこの辺りが一番ハードルが高いところなのですが)

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大分県豊後高田市の廃園になった都甲幼稚園をパン屋さんにした事例。移住政策を推し進める豊後高田市に、移住+起業+公共不動産活用とセットで、幼稚園だった施設をパン屋さんリノベーションしています。

幼稚園という行政が使う財産も使われなくなれば、普通財産という自由度の高い財産に変更でき、賃貸、売却などができます。(制度面)

それを「稼ぐ」視点も入れて、活用することで地域にも喜ばれ、新たな空間活用が生まれます。(空間)

山間部というハンデも外でパンが焼ける窯を作り、園庭で楽しむなど、その場所でしかできない使い方をされています。

そしてこの企画を受け入れ、実行するために、行政職員の方々も様々な調整に動いていただき実現できた事例です。(組織)

自治体は地域で一番の「不動産屋さん」でもあります。空間、組織、制度の3点をうまく組み合わせていくことが肝になりそうです。

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産山村のお隣の竹田市久住町の公民館の事例。

丸山集落改善センター、いわゆる公民館施設です。この公民館施設がすごいところは、10数世帯の地域ながら、集落全体で資金を集め、自分たちで建て替えを行っているところ。なぜそのようなことができているかというと、高原地帯でもある久住地域の特性を生かし、マラソンの合宿施設として、活用されているからです。集落の方々で、1.2キロに及ぶマラソンコースまで整備し、毎年マラソン合宿場所としても活用されているのです。

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産山村にも地域のNPO団体が作った図書館があります。ぜひ、次回取材に行きたいと思います!山間部ならでは特性を生かして、地域主体でも公共空間を活用していく可能性を感じます。

地域科学研究所:西田

 

地域活性化のキモとは?

いくつもの地域プロジェクトを動かしていると、じわじわと活性化の原則論がわかってきます。良く見られるのは、活性化=観光=イベントの図式。○○青年部などの公的集まりが主体となり、ボランティアで始まるもの。予算がなく、手弁当となると、負担は相当なもので、多くは数年でフェードアウトが相場です。
僕は、最も重要なのは、換金物を作り、磨き、それを外世間にどれだけうまく伝えられるか。ここにほぼ本質があると思っています。人口減も、後継者不足も、耕作放棄地も山林の荒廃も、その多くは稼げなくなって行き詰まってしまうのです。稼ぎましょう。ただし、自力では限界があります。
弊社Bunboがさまざまなプロジェクトで取り組んだ商品開発は、すべてプロの力を結集したものです。食品なら料理研究家を入れてレシピから考えます。中身が決まったら、デザイナーにパッケージを提案してもらいます。ここを自分たちでやってしまい、大きなポテンシャルがあるのに、売れなかった商品を僕は山ほど知っています。
産山村は、換金できる魅力的な商品やサービスをどれだけ生み出すことができるのか。この村の未来はそこに掛かっていると言っても過言ではありません。これまで弊社が関わった中から、幾つかのヒット商品をご紹介します。(江副P)

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「九州ちくご元気計画」で生まれたむつごろうラーメン(右)は、月1万食出荷。

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シニア女性2人が立ち上げた山の神工房の売れ筋。黒にんにく「元気の黒玉」。

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八女郡星野村のJA女性部が立ち上げた乾燥野菜シリーズ。「ほしのほしやさい」。

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筒井玩具花火製造所の大ヒット商品。線香花火「花々」は、1万円でも常に品薄。

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大分竹田の「たけたの食べ方」で開発した人気商品、「かぼすサブレ」。

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淡路はたらくカタチ研究島で誕生した「木々のはちみつ」。金額は4500円也。

 

これからの自治体経営に求められるもの①

自治体の台所事情のこと

自治体の財政というと民間会計用語にはない難しい財政用語が並び、とっつきにくい印象があります。しかも、入りと出の単式簿記での会計で、経営事情がわかりずらいという課題もあり、総務省は、統一的な基準による財務書類という形で、複式簿記の財務データを 1,755 団体(全団体の 98.2%)が平成 29 年度までに整備することを要請した経緯があり、株式会社地域科学研究所のお仕事で産山村の複式会計での財務データの作成も支援させていただいた経緯もあり、そこで見えてきた自治体台所事情のことについて少し触れたいと思います。


「見える負債」と「見えない負債」

自治体の財務データを扱う仕事を通して、分かってきたのが、見える負債と見えない負債に対する経営感覚がこれまで以上に重要になること。自治体の資産量は、ハコモノからインフラまで幅広く、民間よりも資産を保有する地域の中でも大きな不動産所有者でもあります。

この資産は、自治体の負債(借金)を活用し、必要な公共資産整備(「普通建設事業費」と公共施設(学校、庁舎等)の建設やインフラ(道路、橋梁)整備のた めのもので、社会資本(モノ)の蓄積に対しておこなれてきました。

ほとんどの自治体で1970年代から2000年代にかけて学校などをはじめ建設されてきたものばかりで、これから、建築後40年、50年と経過し、一気に老朽化していくフェーズに入っており、新しいものを建築するより、今あるものを更新する計画が重要な視点になります。

ただ、これらは、作った費用(建設費)は、負債で見える化されていますが、できた時点で、目に見えない負債(今からかかる修理や建て替える費用)も同時に発生しているといえます。使っている間は、ジワジワ雨漏り対策や、改修で使えるもので、ひとつひとつは、あまり経営に影響を与えないように思われてしまいますが、行政の資産が同時期に古くなっているということは、その数は右肩上がりで増えていくものであるということは容易に予測できます。これが見えない負債の正体です。

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先日の西日本新聞で「合併自治体、特例切れ財政危機 大分・杵築は再生団体回避へ緊急策」の記事が掲載されました。これは、杵築市だけが特別であるのではなく、合併した団体は特に、社会インフラも多く、合併の特例がなくなることで収入がなくなり、厳しい財政事情の団体が増えている証拠です。

建てるときには、自治体の借金と国や県の補助で作られた公共施設も、改修や建替えの時は自前の財源で更新しないといけません。(建物を維持管理するお金は、建設した時のお金の約4倍から5倍あるといわれています。)見えない将来のリスク(負債)をどう減らしていくかを考えておくことが、これからの自治体の生き残りには大事な視点なのです。

190905講義資料(和田)福祉にかかる費用は増えて、建物にかけられる費用が間に合っていないのが、今の自治体の財政事情。

財政的背景もさることながら、まさにどの自治体も経営の選択と集中が求められています。さらにこれからの日本の公共空間の使い方、作り方は大変革期を迎えるということについて次回は触れたいと思います。

 

地域科学研究所:西田




吉本哲郎氏の地元学 「足もとをみつめよう」

産山村の将来のあり方について村民とともに考える産山未来計画づくり。これまで、村が直面する問題を中心に話し合いを重ねてきましたが、11月14日(木)に開催された第4回産山未来会議では、産山村の持つ「良いところ」や「資源」について考える機会を設けようと、水俣市より地元学ネットワーク主宰である吉本哲郎氏と国立水俣病総合研究センターの原田利恵氏にお越しいただきました。

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まずは原田利恵さんによる「第三者の目からみた産山村の良さ」。

初めて産山村を訪ねた原田さんが、会議までの4時間に村を巡った感想を写真スライドとともに見せていただきました。私たち住民が当たり前のように目にする村の1シーンを「美しい」と呼ぶ原田さん。原田さんのスライドを見ながら、私たちにとってはなにげない日常の、ありふれた景色の貴重さ、素晴らしさをあらためて気づかされます。

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次に吉本氏によるお話し。
地域の良さを探す手法として全国に広がりをみせる「地元学」は、水俣病で分断された地域を再生する「もやい直し」の実践的な方法として生み出されました。

住民間の断絶が続き「20年も患者と全く会えなかった」という元市役所職員の吉本氏は、中傷や差別、風評被害で大きな傷を負った水俣で「周りが変わらなければ、自分たちが変わるしかない」と腹を括り、住民たちと共に徹底的に自分たちの足元を見つめ直しながら「地元にあるものを探し、組み合わせて新しいものをつくる」「そこに気づきと感動があった」と水俣の再生について語ってくれました。また、その過程には「笑い」と「ユーモア」が最も大切だったことを何度も強調されていました。

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良いもの探しのコツは、村には「なにもないと思っているかもしれないが、ここが大好きという場所を見つける」とのこと。「いいものを毎日見ていると当たり前になってしまうかもしれない。でも本当は当たり前ではない。失った時に初めて当たり前でなかったことに気付く」と「ないものねだり」ではなく「あるもの」が壊れてしまう前に価値を「発見」し、大切にしていく思いを一人一人が持つことが地域づくりにつながると語っていただきました。

そのように考えると、住民アンケートでの「産山村の好きなところはどこですか」に対する回答を整理すると、村が大切にしないといけないものが見えてきます。

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地元学は「失う」前にあたりまえの尊さに気づいてもらう、きっかけづくりという吉本氏。村の良いものを失ってしまわないよう、次に残していくことを計画に取り入れたいと考えています。(産山村企画振興課)